予感の手触り

感想の掃き溜め

闇の子供たち

Twitter. It's what's happening.

http://www.yami-kodomo.jp/



当事者の行動がリアルでない
しかし、この映画を上映まで持って行ったことは素直に素晴らしい

評価:★★★☆☆




<ネタバレ注意>



タイにおける児童買春・臓器売買を巡る物語。
一応フィクションということになっているが、恐らくその多くは事実だろう。


1.

正直に感想を言えば、脚本に難があり過ぎて物語に没入することができなかった。
全体として当事者の行動に決定的な「甘さ」があるからだ。
登場人物の行動にリアルさが根本的に欠けている、と言ってもよい。


たとえば、江口洋介演じる新聞記者・南部。
彼は臓器売買というタイ社会の暗部に敢えて踏込み、仲介人や医師などに接触するうち、
露骨な警告を受けるようになり、命の危険を感じる場面もしばしばある。
にもかかわらず、彼には「自分の命を守りつつ、繊細に取材を進めようとする」気持ちが感じられない。

場末のバーで無配慮に泥酔したり、児童売春・臓器売買をあっせんするマフィアが支配する土地で
何のためらいもなく「臓器売買」などのワードを口にしたりする。

とりわけ違和感を感じるのは、ラストで宮崎あおいを引き留めるシーン。
なにも銃撃戦が起こってる最中にそんなことする必要はないでしょう。
気が動転してる云々以前の問題です。


他方、宮崎あおい演じる児童福祉NGOのボランティア・恵子には感情的な行動が多すぎて、
むしろ子供を救うことを難しくしてしまっている。
「自分探しの旅でタイまで来ちゃいましたっ☆」的なノリで動いてしまっているのだとしても、
社会の闇に踏み込む人間としての理性・常識があまりにも欠けていて、
「映画とはいえこれはあり得ないよね」と壁を作ってしまった。

僕はこうした「社会派」の運動をしている人に実際出会ったことはないから、
彼ら・彼女らの心情はよくわからないが、理想だけで人を救うなんて甘すぎるのではないか。
より効率的に問題を解決するための策なり力(権力やお金なども含む)を十分に蓄えてから
活動を始めればよいのに、とたびたび疑問に思う。
(勿論彼らが「対処療法」的に、いくらかの成果を上げることは承知の上で)




2.

さて、このように劇中の人物の動きが不自然でイマイチ世界観についていけなかったのだけれども、
実際に児童売春・臓器売買が行われているであろうタイで撮影を遂げ、
それを公の場で公開することに成功しているのは本当にびっくりした。

作中にも描かれているように、(多くの場合の)あっせん主体であるマフィアの報復に遭うことがあるからだ。
このような社会的問題を解決しようとする人たちに対して、安易な行動を慎むように、
そして本当に問題を解決するつもりならば、自分の命を掛けて特攻しなければならない、
との警告を与える効果を持つ点に、この映画の意味があると思う。


売春・臓器売買の主体たる組織、そしてそれを間接的に援護する組織を考えればわかるように、
問題解決のためには「国家」全体と闘う覚悟が必要だ。
マフィア・医師・警察・顧客たる国内外の富豪(タイ本国の物価から見た場合)など、
この問題を掘り返されて不利益を被る団体を挙げていけば、
それは国家権力のほぼ中心を指摘するのと同じことだ。

これに立ち向かうのに、「虐げられている可哀そうな子供を救う」という理想論だけで十分なはずはない。
交渉の材料となる情報、その情報を操る金の力、交渉が決裂した時に用いる武力などがなければ
社会問題を「根本から」解決することはできない。

理想論を掲げるのは尤もだし、僕もそれを否定するわけではない。
しかし、その理念から端的に行動に移すのは早計なのだ。



これは繊細な話題なのでもう一度念を押しておこう。
「子供を助ける」という理念は素晴らしい。
それで実際に救われる者も一定程度いるのは確かだ(本作でも宮崎あおいがそれに成功している)。
しかし、本当の意味で問題を解決するには、物事の根本的な構造を崩さなければならない。
そのためには広い意味での「力」が必要だ。
本当に「子供を救いたい」ならば、まずは「力」を手に入れるべきだ、僕はそう主張している。



3.

とても衝撃のあるテーマだったが、いかんせん魅せ方がイマイチだったので、
普通の映画という意味で★3つにとどめた。

こういう映画って見てて本当に残念で、僕が今思い出せる限りでは「BOX 袴田事件 命とは」がそれにあたる。

これは結構ひどかった。