予感の手触り

感想の掃き溜め

20210919-24_道東旅行:5日目

今日は帯広まで行く。


前日の摩周湖は霧が深く視界がほぼなかったくらいだが、今日は打って変わって快晴。屈斜路湖に寄る。
湖畔にお湯が沸き出ている。裸足で砂地を歩くと、快晴なのもあいまってかほんのり温かい。社会人と思われる男性3人が砂で城のような建造物を作っていた。
視界の先の島が、水面近くを漂うように発生している霧で朧気に見える。こんな光景がとても好きだ。

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暫く走って阿寒湖のアイヌコタンに着く。熊の木彫り人形を買おうと思ってのことだ。といっても鮭を咥えた伝統的なものではなく、より抽象化されたようなものを求めていたのだが、観光地然としていて想像していた物が全くない。どこのお店も店主らしき人の接客が強くてゆっくり見る気分にならなかった。彼らにも生活があるから当然か。軒先で飼われている犬を撫でていたところ、店主のおばさんから「犬触るの慣れてますね」と言われる。同じく退散。
お土産店の一角を離れ暫く散策しているとベンチがあったので座る。なぜか子猫が集まってくる。観光客に餌付けされてるんだろうね。といっても決して触らせてはくれない。
それでは、ということで、近くに自生していたねこじゃらし(今調べたら正式名称はエノコログサというらしい。)と枝とを、イネ科っぽい雑草の葉で縛って連結させ、即席のねこじゃらし(これは遊具としての呼称)を制作した。
直ぐに10匹弱の子猫の王となる。ちょろいね。ただ5分位経つと飽きてきたようで人心掌握が出来なくなってきた。
ふと周りを見渡すと烏の羽を認めたので、ねこじゃらし(学名エノコログサ)と交代させ、ねこじゃらし(遊具名)改が完成する。
先ほどより食いつきが良いし持続する。野生動物の臭いや形態に拠るものだろうか。他の観光客も遊びたそうな顔をしていたのでねこじゃらし改をほっぽって車に向かう。

高速道路に乗り込む。この旅程の前半2日間は、社内で音楽をかけ歌いながら運転していたが、なぜだか3日目からは音が邪魔になって無音で運転していた。
歌の欲求は最初の2日で十分満たされたのだろう。
この旅に出る前、会社で働く気持ちがぽっきり折れてしまっていた。その要因はいくつかあるのだが、担当ラインの上にいる人物(上司ではなく単に年齢が上の意味)が自分より実務能力が劣るにも関わらず好待遇を受けていることに納得できないこと、部下のレベルが低いこと、そのしわ寄せが自分に集中していると感じられたこと、その状況をチーム長が完全には是正しないこと、会社の将来性に疑問を持ったこと、そしてそもそも自分の命を削って働くことの意味を見失ったこと等がある。
そうした背景があり、仕事がひと段落したタイミングで長期休暇を取ったというのが今回旅に出た流れであった。
無音の車内では自ずと、上記のような不満が受容できるかと、不満と感じてしまう自分の思考枠組みが妥当なのかどうかに頭を支配されてしまう。音が邪魔だった。

帯広着。今日は民宿に泊まるのであらかじめ汗を流しておきたいと思い、大き目のホテルの日帰り浴場に行くと、人数制限があるとのことで1時間程度待ってようやく入浴。
久々にサウナに入った。金持ってそうなオヤジが複数居て心臓に負担をかけている。水風呂にはゆっくり浸かれなかった。
夕食は適当に探してお魚が美味しそうなお店にする。女将さんとおばさんのバイト2名で回しているこじんまりしたお店だったが、地元の有名店なのか満席だった。二人の接客や所作にもプロ意識が感じられてよい。ホッケ焼きを頼んだところ一人で食べるには多すぎるとアドバイスがあってサバ焼きにした。これも多かったけども。魚の干物を研究しようという思いが更に募る。

20時頃に民宿に着く。おじさんが一人でやっているようだ。建屋はログハウス風で結構しっかりしているのだが、仲間と数人で建てたようだ。素直にすごいと思った。
仕事は何をしているかと聞かれたので金融機関と答える。
またなぜ東京から旅に来たのかと聞かれたので、仕事で色々ありまして・・・と最初は適当にはぐらかしていたのだが、血迷って、実家の事情も話してしまった。
父親はもともと心筋梗塞によって脳機能が低下しており、自営業をしていたのだけれどもコロナの影響で廃業した。債務も(事業規模に比べれば)膨大だったので自己破産の手続きを弁護士に進めてもらっていた。その過程で父親は躁鬱のような状態になり(正式な診断は受けていないが病だったと思う)、元々関係性が良くなかった母親との亀裂が決定的となり、自己破産の影響を最小限に留まる意図もあって両親は離婚していた。父親は廃業後に食い扶持がないため生活保護を受けていた。
そのような状況なので、実家の様子を見てくるのも今回の旅の目的の一つだった、というと当時の自分の認識とずれがあるように感じる。
実家には、この旅を始めた当初には寄るつもりは全くなかった。だが、無音の車内の時間の積み重なりにより、自分はこのタイミングで実家を見ておくべきではないかという思いがぽつねんと生まれてしまったのであった。
民宿のおじさんに実家の状況を話すにつれて、その隠れていた気持ちが露になってきた。
寝る直前、「明日は実家に行こう」という思いが固まる。翌日は帯広から札幌に向かう予定だったので、少し足を延ばせば十分可能だ。Google Mapで一応行路を確認する。往復数時間程度あれば問題なさそうだった。
外は大雨が降っていたけれども室内はカラリとしていて、すぐに寝付いた。