スラムドッグ$ミリオネア
http://slumdog.gaga.ne.jp/site/
脚本はベタ
「運命を肯定する」ことの説得力
音楽がすごく良い
評価:★★★★☆
以下ネタバレ注意
1.
スラム街で育った負け犬・ジャマールが、自分の人生を振り返り、経験を活かしつつクイズ番組で全問正解を果たすまで。
脚本としては、
・劣悪な環境で育つ
・母親が殺される
・兄、知り合った少女と助け合って幼少期を過ごす
・乞食ビジネスに利用される
・逃げる。少女(名をラティカという)とはぐれる
・ラティカと再会するも兄に裏切られ再び離散
・また再会、しかし障害が
・兄の犠牲によりその障害を乗り越える
とベタベタな展開が続く。
しかし本作の魅力はこの脚本の単純さでは失われない。
その魅力とは、「運命を肯定し前に進む」というジャマールの決意の力強さにある。
2.
(1)
本作の題名通り、ジャマールはスラム街出身である。
新興国のスラム街では、えてして犯罪行為が横行する。マイルドに描かれているが(ここが個人的にちょっと不満。もう少しエグく演出しても良かったと思う)、インドでももちろんそうだ。
このような状況におかれた時、人間のとる対応は恐らく二種類に分かれる。
1 これは「運命」だ、と受け入れて、自分の力で得られるモノを目指して必死に生きる
もしくは
2 これは「運命」だ、と諦めて、自分の力の及ばない状況に流され生きる
に大別されるだろう。
本作のメッセージは1だ。
1.で見たように、ジャマールの「ラティカに会いたい」という思いは最後まで成就しない。
幸運にも裕福な国で生まれ育った僕には、「なぜそこまで彼女にこだわるのか?」という疑問が頭によぎるが、それはおそらく、劣悪な環境で育ち出会った影響が大きい。
つまり、モノが豊富な状況では「ラティカに会う」という願いは他のモノと代替可能(ないしごまかすことができる)であるのに対して、ジャマールが育ったような環境においては、彼女だけが全てだったのだ。
幼少期から様々なものを奪われてきた(それは有名俳優のサイン入りブロマイドだったりする)ジャマールにとって、ラティカは、兄以外で初めての「大事な人」であった。
モノが不足し自分の気持ちと向き合う時間がたくさんある、むしろ向き合わざるを得ない状況が、ジャマールの決意を確固たるものにしたのだろう。
ここに舞台設定の妙がある。
(2)
「ラティカに会いたい」、思いを遂げるためジャマールは「日々を全力で生きる」。
それは日常の経験から最大限学びを得るということだ。
そして、その財産が最終的に彼を「ミリオネアにする」。
これほど人生(運命)を肯定する物語はない。
最後にジャマールがラティカの頬に刻まれたナイフの跡にキスするシーンは、これを端的に表す素晴らしいシーンだった。
大人になったラティカにジャマールが再会するシーンで、ラティカは人々が「クイズ・ミリオネア」の番組*1を見る理由を
「現実から逃げたいからよ」
と説明する。
稼ぎも少なく日々をなんとかしのぐ現状に甘んずるだけで、クイズに全問正解して億万長者となる物語をあくまで「虚構のストーリー」としか捉えていないのだ。
その意味で、確かにあの番組は「現実逃避の装置」そのものであった。
しかしジャマールにとっては違った。
彼は番組を「ラティカに会う」手段として利用する。
ここにジャマールの力強さがある。
彼はミリオネアになるという幻想に惑わされることなく、地に足をつけて生きていた。
その思いが最後に結実したのはとても希望に満ちたものだ。
3.
このように本作の良さは、「運命を肯定する」生き方の希望を描いたところにあると思う。
それを彩るのが作中のBGMだ。
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音楽の詳しい理論はわからないけど、「なんとなく良い」(言語化出来なくてごめんなさい・・・)。
僕は日々生きる中で、ジャマール程確固たる決意があるわけでもないし、それゆえ、日々を全力で生きているとは決して言えない。
毎日堕落した生活を送っている。
でも、現状のままで良いとは思っていない。
そんな泥沼から脱出するための、一つの指針として、この作品を意識しよう。
メッセージ・音楽は素晴らしかったが、脚本がベタだったので、★★★★☆。
*1:インドだと番組名は違うけれど、わかりやすいように日本の番組名にした